ヨアヒム・パティニール


プロフィール

生誕/死没

1480年頃~1524年

ベルギー

代表作

エジプトへの逃避

画像_ヨアヒム・パティニール「エジプトへの逃避」

新約聖書はマタイ福音書のエジプトへの逃避がモチーフでありながら、逃避する聖家族(母マリア、父ヨセフ、幼な子イエス)が目を凝らさないと分からないくらい小さく描かれています。

キリストの洗礼

画像_ヨアヒム・パティニール「キリストの洗礼」

雲の間から現れる神の様子が壮大で幻想的な自然の中で独特の雰囲気をかもし出しています。

ステュクス川を渡るカロン

画像_ヨアヒム・パティニール「ステュクス川を渡るカロン」

ギリシャ神話を主題にした作品。川を挟んで左が天国、右が地獄を表しています。この作品は、一世代前のネーデルラントの画家、ヒエロニムス・ボスの影響があると言われています。

プロフィール

生まれや環境

ベルギーのアントワープという町で人生の大半を過ごしたヨアヒム・パティニールは、イタリアで興ったルネサンスの波が伝播した北ヨーロッパで活躍した北方ルネサンスの画家です。

サインが残っている作品はわずかですが、パティニール、あるいは、彼の工房の作であるとされている作品はそれなりに多く残っているようです。

風景が大好きだった画家

ヨアヒム・パティニールは風景画というジャンルが生まれるずっと前に風景画を描いていたことにより、風景画家のさきがけと言われています。

友人でもあったドイツの偉大な画家・版画家、アルブレヒト・デューラーもパティニールのことを「素晴らしい風景画家」と讃えていたと言われています。

彼は風景を描くことに強いこだわりを見せており、ルネサンスの頃には既に一般的になっていた他の画家との「分業」においても、風景は自分が描き、人物は他の画家に描いてもらう、ということをしていたようです。

ルネサンスと言えども、キリスト教を主題とした宗教画や、ギリシャ神話を主題とした神話画が大勢を占めていた時代。そんな時代に主題こそ宗教や神話にしていたものの、「ほぼ風景画」と言える絵を描いていたパティニールの作品の見どころは次で書こうと思います。

 

作風

緑と青を駆使した空気遠近法

ヨアヒム・パティニールという画家を好きになるきっかけとして多いのが、緑から青へのグラデーションで美しく描かれた遠景です。霞みゆく広大な空と、遠くの方にそびえる山々。奥へ行くにしたがって吸い込まれるように白になっていくのが特徴です。

私も最初にパティニールの絵画を見たときは、この緑と青の色合いに心を打たれました。

北方ルネサンスの画家たち(例えば先ほど名前を挙げたアルブレヒト・デューラーら)は、自然を丁寧に描く画家が多い印象があります。

その中でもパティニールは、自然の細部を描きこむのではなく、地球を感じさせるスケールで自然を描写をしており、思わず感嘆の声が出てしまいます。

自然の中に織り込まれた幻想

パティニールの代表作を見て気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、彼はただ見たままの自然を描くだけでなく、そこに幻想性も盛り込んで描いています。

例えば、切り立った山を見てみてください。現実にここまでダイナミックに切り立った崖があるでしょうか?

確かにこのような険しい山もあるところにはあるかもしれませんが、少なくともパティニールの生まれたディナンという町や、活躍したアントワープという町では見ることのできない景色です。

また、低木の緑は黒々と深く濃く、海は鮮やかで澄み渡るようなブルーをしています。

この極端な色合いや形状で表現される幻想性は、一般的にはルネサンスを経て到来するマニエリスム初期の特徴である、と解釈されるだけのものかもしれません。

ですが、ヨアヒム・パティニールという特異な画家は、見たままを捉えるのとは違う自然の理想美を表した、という見方もできるのではないかと私は考えています。