ルーカス・クラナッハ(父)


プロフィール

生誕/死没

1472年~1553年

ドイツ

代表作

アダムとイヴ

画像_ルーカス・クラナッハ(父)「アダムとイヴ」

クラナッハが好んで描いた題材。クラナッハの最大の特長である独特な身体のフォルムが見てとれます。

ユディト

画像_ルーカス・クラナッハ(父)「ユディト」

ユディトは旧約聖書の外典「ユディト記」に登場するユダヤ人女性です。この絵は彼女の知略によって敵対勢力の司令官の首を斬って殺すシーンです。

三美神

画像_ルーカス・クラナッハ(父)「三美神」

2011年にルーブル美術館のコレクションに加わったばかりの絵です。ギリシャ・ローマの三人の女神が描かれています。

プロフィール

生まれや環境

ルーカス・クラナッハ(父)は、同名の次男がいるため、よく「ルーカス・クラナッハ(父)」と書かれます。

(逆に息子の方を「ルーカス・クラナッハ(子)」と書くこともあります。)

記録に残っている限り、1504年、28歳のときにはヴィッテンベルクで工房を構え、ザクセン選帝侯フリードリヒ3世の下で宮廷画家として活躍しだしたことが分かっています。

クラナッハ(父)は主にヴィッテンベルクで活躍した画家で、フリードリヒ3世以後、ヨハン、ヨハン・フリードリヒと継続してザクセン選帝侯に仕えました。

キリスト教を中心に見た当時の時代背景

クラナッハ(父)が活躍した時代は、キリスト教にとっては混迷期でした。

初期、中世、ルネサンス期とローマ教皇を中心として大きな権威を持っていたカトリック教会でしたが、徐々に聖書を都合の良いように解釈するようになっていきます。それと同時に、聖職者は堕落し、教皇の地位はより権威的になっていきます。

教皇や上位の聖職者たちに対して、不満を募らせていったのは敬虔な信徒たちで、その中には結果として宗教改革をおこなうこととなるマルティン・ルターの存在もいました。(歴史の教科書で彼の名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。)

マルティン・ルターは「福音(ふくいん)主義」という立場をとっており、これは要するに「厳密に聖書から読み取れないような解釈をしちゃダメよ!」という考え方です。ルターは、この福音主義を掲げて、キリスト教の堕落を食い止めようとしました。

ルター自身は、あくまでカトリック教会を立て直そうとしただけで、元々分離した教派の立ち上げを目的に活動していたわけではありませんでしたが、結果として今日まで続いている「プロテスタント教会」はこのときの宗教改革で生まれたものでした。

宗教改革の波にうまく乗った画家人生

クラナッハ(父)が最初に仕えたザクセン選帝侯フリードリヒ3世は、ザクセン公国の君主として、宗教改革を指導していたマルティン・ルター、および、新教派であるプロテスタント教会を保護しました。

その君主に守られながら、クラナッハ(父)は主に祭壇画や城の装飾などをおこないました。ちょうどその時期に、マルティン・ルターがヴィッテンベルクの神学校の教授に着任し、クラナッハ(父)とルターは交友を関係を持つようになります。

フリードリヒ3世の跡を継いだヨハンの時代になると、肖像画を中心に描くようになり、ルターの肖像画も多数描いています。世界史の教科書等で採用されているルターの肖像画は、クラナッハ(父)が描いたもののことが多い印象です。(実際、Wikipediaで「マルティン・ルター」を検索しても、クラナッハ(父)の描いた肖像画が出てきます。)

同時代の他の画家たちは、この宗教改革の荒波に飲まれ、パトロンを得るのに苦労した人も多かったようですが、クラナッハ(父)は確固たるパトロンによってしっかりと守られていたため、生涯画業に集中でき、ヴィッテンベルクの文化の振興などにも大きく貢献しました。

なお、クラナッハ(父)は81歳まで生き、一緒に大工房を経営していた子どもたちにしっかり後を継がせ、中でも同名の次男は父と似た絵を描く著名画家へと成長しました。

作風

独特なフェチズムを感じる肉体

私が大学時代に西洋美術史を専攻していたことは過去の記事でも触れたことがあったかと思いますが、同じ西洋美術史のゼミに所属していた友人たちの間でも、「ルーカス・クラナッハ(父)の絵は一目で分かる」と言われていました。

ルネサンス期の絵画は、地域や画家ごとに様々な様式が生まれだすちょうど過渡期なのですが、それでも描かれるのは主に宗教画ですし、描き方にも画一化された中世的なスタイルが色濃く残っています。

クラナッハ(父)の絵も、題材も当時描かれたものに則っていますし、描き方も特別変わった描き方をしているわけではありません。

ですが、改めて見てみると、描かれる裸体から独特なフェチズムを感じませんか?

クラナッハ(父)は、アダムとイヴを題材に何枚も描いていますが、そのどれもがなんだか艶めかしいです。その裸体の艶めかしさは男女共から感じ取れますが、とりわけ女性の裸体から感じ取れます。

クラナッハ(父)の女性の身体の描き方を見てみると、小ぶりな乳房や丸く出たお腹のライン、また、シュッとした腰回りなどが目につくでしょう。絵によってはむちっとしつつ引き締まった二の腕や大腿もクラナッハ(父)らしさが出ています。

決して理想的な女性のプロポーションとは言えないものの、ある意味、平均的で馴染みを感じるような官能性を見いだすことができるスタイルと言えるのではないでしょうか?

ドイツの画家ならではの緻密な植物描写

これはクラナッハ(父)と同時代にドイツで活躍していたハンス・ブルクマイアー(父)や、巨匠アルブレヒト・デューラーなどにも共通して言えることですが、ドイツの画家たちは非常に緻密な植物描写をおこなうという特徴があり、その点はルーカス・クラナッハ(父)も同様でした。

デッサンが正しいというよりは、例えば葉脈一本一本であったり、実の色付き方、木の肌などの表現が、卓越しているように感じます。とりわけ葉の描写が抜きんでているように思えます。

なぜドイツの画家が植物を緻密に描くのか。それは、ドイツに数多く森があり、豊かな濃い緑の葉を繁らせる植物が数多く繁茂している土地だったことが関係しているかもしれません。