不安を与えるミューズたち


画像_ジョルジョ・デ・キリコ「不安を与えるミューズたち」

誰が描いた絵?

ジョルジョ・デ・キリコ

いつどこで描かれた絵?

1916~1919年、イタリアのフェラーラ

何が描かれている?

絵の題名にもある「ミューズ」とは、ギリシャ神話の文学や芸術を司る女神たちのことです。

女神なので、さぞ美しく描かれているのだろうと思い絵を見ると…、得体の知れないギリシャ彫刻めいたもののが立っていて、頭部には不可解でちょっと怖くもあるものにすげ替わっています。

ミューズたちも、それぞれが背を向けたり、斜めを向いたり、奥に引っ込んでいたり、ちぐはぐでアンバランスな感じをかもし出しています。

他にも、影の方向が一定じゃないことが、この絵の不安をさらにあおっています。

手前の箱のようなものや2つのミューズは左奥へ向けて斜めに影が出来ていますが、右側の建物はほぼ真っ直ぐに影が出来ています。

そして、手前の箱に目をやった時点で既に気付いた方も多かったと思いますが、この箱、遠近感がおかしいです。

奥へ向かっていくにつれて小さくなっていくはずの立方体は、あえて奥を幅を広く、高さを低く描いています。

不安を感じずに見られる箇所を探す方が難しい絵ですね(笑)。

たぶん唯一安心して見られるのが、後ろに見えている風景でしょうね。

これは当時キリコが、第一次世界大戦の軍役のために滞在していたフェラーラの街並み。全体的に夕方っぽい赤い陽光が印象的ですね。

フェラーラの幾何学的な街並みに、キリコはいたく感動したそうです。

きっと、第一次世界大戦の不安な情勢に対する、キリコの不安な心を反映した作品が、この作品なのでしょう。

それにしても、軍役で赴いた先でも制作をおこなうなんて、すごいことですよね。

どうやって描いた絵?

キャンバスに油彩で描かれている。

この絵の見どころ

形而上絵画の代表作

鑑賞者を不安にさせる卓越したテクニックを披露しているこの絵画は形而上絵画の大作の一つです。ほぼこの絵の作者のキリコのみで構成された形而上派は、このような不安や困惑を鑑賞者に与える絵画を描くのが特徴です。

前提知識がなくても直感的に感じ取ることができるこれらの不穏な感覚は、今もなお、日本において形而上絵画の人気が高い理由の一つでしょう。

不安をあおる非日常性

荒々しい筆づかいや激しい色づかいなどはなく、全体として極端な表現が少ないながらも、的確に鑑賞者を不安にさせる描き方をしているところに、この絵の最大の鑑賞ポイントがあります。

じっと一つ一つのモチーフを見、全体を見、としていると、我々が眠っている間に見る夢の、あの不条理さと似たような感覚に陥ることでしょう。