愛の寓意


画像_アーニョロ・ブロンズィーノ「愛の寓意」

絵のタイトルは?

[日] 愛の寓意 (別称: 愛の勝利の寓意、愛のアレゴリーetc)

[英] Venus, Cupid, Folly and Time (別称: An Allegory with Venus and Cupid)

誰が描いた絵?

アーニョロ・ブロンズィーノ

いつどこで描かれた絵?

1540~1545年、イタリアのフィレンツェ?

何のために描かれた絵?

絵画を利用して外交をおこなうことがよくあった当時、トスカーナ大公コジモ1世がフランス国王フランソワ1世へ贈るためにブロンズィーノに命じて描かせたものです。

何が描かれている?

何が描かれているか触れる前に、まずは「寓意(アレゴリー)」が何かについてご説明しましょう。

「寓意(アレゴリー)」は日本語の「比喩」という言葉と近いと思います。絵画における寓意とは、「ある表現したい抽象的な概念(愛や平和や狡猾さetc)を別のものでたとえること」です。(ざっくりとした説明ですが)

そう言われても…と、あまりピンとこない方もいらっしゃると思うので例を1つ。例えば、イソップ物語ではキツネが狡猾さの寓意として描かれていますね。小さい頃に絵本でそういうキツネを見てきた私たちの中でも、キツネがずる賢そう~っていうイメージがあるのではないでしょうか?(実際はずる賢くなんてなく、かわいいですけどね!)

この絵「愛の寓意」も、「キツネ = 狡猾さ」のように実は様々なものがたとえられています。解釈がさまざまあり、正解はないのですが、わりと一般的な説を採用しますね。

絵を見てみましょう。画面内に描かれている人物は合計7人。なんだか恐ろしい風貌のものもいますね。まずは手前の人物からいきます。

ウェヌスとクピド

ヴィーナスは、ギリシャ語ではウェヌス、キューピッドは、ギリシャ語ではクピドと言います。

手前で抱き合っている女性の方が、美の女神ウェヌスで、そのウェヌスに接吻をしようとしているのがクピドです。ウェヌスの右手で隠れていて見にくいですが、クピドの背中には羽が見えていますね。ウェヌスの方は左手に金のリンゴを持っています。禁断の果実を表している金のリンゴはウェヌスのアトリビュートです。(アトリビュートは、その描かれた人物が何者であるか判別するために、一緒に描かれるもののことですね。絵画のアトリビュートについては、いずれ別途記事を書こうと思います。)

それにしてもこの2人の絡み方、はっきりと言ってしまってまるで恋人同士のようなエロティックな雰囲気ですよね。しかし実際は、ウェヌスの子がクピドなので、この2人は親子なのです。なんだか危険な香りがしますね…。

この2人の危うい感じから、肉体的な関係を匂わせた恋を表現していると言われています。この2人を主人公として、周りの人物たちがさらに彼らの怪しげでねじれた愛情関係を彩っていきます。

刹那的な快楽、欺瞞、嫉妬

ウェヌスの右隣でバラを手に持ってはしゃいでいる男の子がいますが、これは「刹那的な快楽」を表していると言われています。幼さゆえの無垢な奔放さが見受けられますね。

その後ろには、冷ややかな視線をこちらへ向けている少女がいます、が、これがものすごい怖い感じですよね。まず、よく見ると、胴体が人間ではない。蛇のように見えますね。さらによく暗がりになっている部分に目を凝らすと、かぎ爪のついた脚が見えますね。この少女は「欺瞞」を表していると言われています。欺瞞とは人をだまして欺くことですね。

さらに細かいところを見ると、この少女の手がどこか不自然なのに気付きませんか?実は、左右が逆なのです。ヨーロッパでは古来、右は正義、左は邪悪といった考え方をしており、その左右を入れ替えて描くことで、人をだます欺瞞の寓意としてふさわしい姿となっているのです。

今度は絵の左側を見てみましょう。こちらには今にも叫びだしそうな苦しげな表情で頭をかきむしっている人物がいるでしょう。一見すると分かりづらいですが、この人物は老婆で、年齢と共に若さや美しさを失い嫉妬に狂う様を表しています。そう、「嫉妬」の寓意ですね。

これだけ見ていってもいかに不穏な絵であるか分かることでしょう。人物以外にも画面右下の仮面が「不誠実」を表していたり、キューピッドが膝を乗せている赤のクッションは、赤という色が現世や肉体の色を表していることもあり、人間らしい「好色」などをを表しているとされていたりします。

時、真理

絵の右上にはたくましい腕をぐっと左側へ伸ばしているおじいさんがいますね。これは「時」の寓意と言われています。

他の寓意画でも見受けられるものですが、この「時」の寓意と「真理」の寓意は対で描かれることが多く、時と共に真理が暴かれることを表すために、「真理」のまとったベールを「時」が剥がし取る、という描き方がよくなされます。

この絵でも、右上の「時」の寓意が左上の「真理」の寓意から青い布を剥ぎとろうとしているように見えます。ですが、その結果、手前のウェヌスやクピドのあられもない姿が思いっきり表へ出てしまっていますね。

従来の説では、「時」の寓意が目の前で快楽にふける男女の様子を「真理」のもとにさらそうとしている、という説が一般的でした。

ですが、「時」と「真理」の寓意は、目の前の痴態には目もくれず、2人だけでやりあっているように見えます。そして「真理」の寓意は、どこか「時」の寓意を嫌がっているようにも見えますし、「時」の寓意は「真理」の寓意をぐっと睨みつけて牽制しているようにも見えます。

実は、近年(いつ頃だかはちょっと調べていませんが…)、「真理」の寓意として描かれた女性の顔の上には、仮面がつけられていることが修復時に発覚しました。

仮面をかぶった「真理」。…なんだかミステリーな香りがしてきましたね。笑

要するに…?

これまでのことを簡単にまとめますと、表面的な悦楽にふける不道徳な男女が前面に描かれ、その後ろにだまし合いや嫉妬がうすら寒い感じで描かれています。そして一番奥には、仮面をかぶった真理と孤軍奮闘する時が描かれている感じでしょう。

ここから導き出せる説として、当時の宮廷の道徳の乱れや倫理観の無さへ批判を込めて描かれた作品ではないか、と言われています。しかし、こうやって1つずつ読み解いてみると、ただ妖しげなだけの絵ではなく、「いったい何を信じたらいいんだ…」というような、思わず嘆息するような絵であることが分かりますね。

どうやって描いた絵?

キャンバスに油彩で描かれている。

この絵の見どころ

マニエリスムの美術特有の冷ややかさや妖艶さ

表面的な部分で言うのであれば、ブロンズィーノの「愛の寓意」は、マニエリスムの美術特有の冷ややかさや妖艶さを高い完成度で見られるのが見どころの一つですね。特に白くエロティックでありながら、近寄りがたい空気をはらんでいる肌の色合いなどは、ブロンズィーノらしくて良いですね。

謎解きミステリー的な楽しさ

寓意画ならではの、誰が何をたとえているのか?を探ったり、従来の説とは違った推理をしてみたり、ミステリーのドラマを見ているような楽しみ方ができます。決して、「何が描かれている?」の段でご紹介した説が正解というわけではありません。昔から数多くの論争を呼んだブロンズィーノの「愛の寓意」のことですから、また新しい説が出てくることもあるかもしれません。

こういうところにロマンを感じますねぇ。

どこで鑑賞できる?

ロンドン・ナショナルギャラリー(イギリス)