今回はナビ派を紹介するわね。
ナビ派……。
なんかかっこいい名前だな!
「ナビ派」の代表作は?
まずは代表作を見ていきましょう。

1888年/オルセー美術館(フランス)所蔵
ピエール・ボナール「庭園の女たち」
1890〜1891年/オルセー美術館(フランス)所蔵
参照:《庭の女たち》ピエール・ボナール|MUSEY[ミュージー]
モーリス・ドニ「ミューズたち」
1893年/オルセー美術館(フランス)所蔵
参照:ドニ (モーリス・ドニ,Maurice Denis)の代表作品・経歴・解説 Epitome of Artists *有名画家・代表作紹介、解説
なんだか平面的な感じがして独特だな〜。
「ナビ派」の特徴は?
では次に、ナビ派の特徴について解説していくわね。
ゴーギャンに影響を受けた若者たち
時は1888年。
フランスはブルゴーニュ。
駆け出し画家のポール・セリュジエ青年は、ポスト印象派の画家であるポール・ゴーギャンから絵の指導を受けたの。
このセリュジエ青年の一日の体験が、ナビ派の始まりだったわ……。

(なんかドラマティックな始まり方だ……!)
デッサンと丁寧な塗り、自然に即した色遣いなど、伝統的な美術を学んでいたセリュジエ。
そのセリュジエに対して、ゴーギャンは衝撃的な指導をしたわ。
(ゴクリ……)
ゴーギャンは、絵を描いているセリュジエに対してこう言ったの。
あの木はいったい何色に見えるかね。少し赤みがかって見える?
よろしい。それなら画面には真っ赤な色を置きたまえ……
少し赤いだけなのに、真っ赤にしろだって……?!
セリュジエはこの日、雷に打たれたような衝撃が走ったわ。
その日の晩、夜行列車でパリへと戻ったセリュジエは、アカデミー・ジュリアン(※1)の画家仲間たちにゴーギャンの教えを伝えたわ。
ゴーギャンの教えは仲間たちにも衝撃を与え、そのときに共鳴したメンバーで「ナビ派」を結成したのよ。
(※1)アカデミー・ジュリアン:パリにある私立の美術学校。
ゴーギャンの影響を色濃く受けているナビ派……。
いったいどんな集団になったんだろう?
ナビ派がゴーギャンから影響を受けたのは、大胆な色遣いだけではないの。
画家の主観、例えば、精神性や思想を重んじる態度も強く影響を受けたわ。
ゴーギャンの功績については、ポスト印象派の記事でくわしく解説しているから、この辺のことをもう少し知りたい人は読んでおくといいぜ!
ちなみに、ナビ派の「ナビ」は「預言者(※2)」という意味があるの。
(※2)預言者:キリスト教において、神の啓示を受けて人々に神の言葉を伝える神と人の仲介者。
実はナビ派のメンバーは、みんな熱心なカトリック信者だったわ。
それもあって、中世のキリスト教思想を受け継ぐ神秘主義(※3)的なところがあったのよ。
(※3)神秘主義:キリスト教においては、神の存在を自己の内面で直接に体験しようとする思想のこと。
思想が強めだったんだな〜。
ナビ派のメンバーは、自分たちだけで通用する独自の言葉を使ったり、制服や決まりを考案したりするなど、秘密結社のような活動をおこなったわ。
なんか、以前紹介したラファエル前派と似たような雰囲気があるな!
色・線・形をある一定の秩序のもとに構成
ナビ派はゴーギャンから強い影響を受けていたんだよな。
ってことは、印象派に対して反発していたのか?
そのとおりね。
自然の光を画面上に再現しようとした印象派に対して、ナビ派は画面それ自体を秩序立てることを目指したの。
画面それ自体を秩序立てる……。
ちょっとイメージが湧かないぜ……!
ナビ派の画家の一人であるモーリス・ドニの言葉を紐解くと、少しはイメージしやすくなるかもしれないわね。
絵画作品とは、裸婦とか、戦場の馬とか、その他何らかの逸話的なものである前に、本質的に、ある一定の秩序のもとに集められた色彩によって覆われた平坦な表面である
なるほど……!
現実にある物を再現することに躍起になっていた印象派までの絵画を否定し、
「そもそも絵画って、本質的には色が塗られた平面だよね」
という根本に立ち返ったってことか……!
そういうことね♪
ナビ派は、
色、線、形といった絵画を成り立たせる要素を、いかにして秩序立てて構成するか
を重要視したわ。
正解の無い美術の始まり
でもさ、それって要するに「何を描くか」ではなく、「どう美しく構成するか」がすべてってことだよな?
そのとおりよ。
見えている世界を見えているままに描くのではなく、色、線、形を使ってある一定の秩序のもとに画面を構成すればOKってことね。
なんていうか……、それって難しくないか?
印象派までの絵画では、ざっくり言うと人や物をリアルに描くことができれば「上手い!」ってなったわけじゃん?
そうね。
でも、ある一定の秩序をもとに構成するって……、どうなってれば「上手い!」って言えるんだ……?
歌琳さん、するどいわね。
ナビ派は、何を描くか、どう描くかについては明確に定義していないの。
つまり、これまでの美術にはあった「統一された正解」が無くなったということ。
正解の無い美術……。
もう少し実態に近い言い方にすると、
「正解が人それぞれ」
というイメージね。
だから、
人によって違う「ある一定の秩序」をそれぞれが追求していくしか無い
ってことよ。
なんとなく、20世紀以降の美術の分かりづらさって、この辺から来ているような気がするぜ……。
話は変わるけど、ナビ派は絵画だけでなくさまざまな分野の美術で活躍したのよ。
例えば、ポスターやタペストリー(※4)、舞台美術などを得意としたナビ派のメンバーもいたのよ。
(※4)タペストリー:壁掛けなどに使われる室内装飾用の織物の一種。
ボナールが制作したシャンパンのポスター、「フランス=シャンパーニュ」。
参照:《フランス・シャンパーニュ》ピエール・ボナール|MUSEY[ミュージー]
表現の幅が広いな……!
浮世絵の影響を受けた画面構成と装飾性
実はナビ派は日本の浮世絵の影響を強く受けているのよ。
お〜、そうなのか!
嬉しいぜ!
19世紀半ばに万国博覧会で日本の美術が紹介されると、またたく間にヨーロッパ中に広がって日本ブームが起こったの。
この風潮を一般的にジャポニスムと言うわね。
19世紀半ばってことは、印象派とかも日本の影響を受けているのか?
そうね、印象派も日本美術の影響はおおいに受けているわ。
ただナビ派の方が、日本美術、とりわけ浮世絵の手法をうまく取り入れているように感じるわね。
具体的にどういう部分がうまく取り入れられているんだ?
まず一つは、画面構成ね。
ヨーロッパの絵画は伝統的に「どんなテーマで何が描かれているか」が重要だったの。
なので、画面の中に特定のものが描かれてさえ入れば良いという風潮があったわ。
浮世絵はどうだったんだ?
浮世絵は、非常に構成に工夫が凝らされていたわ。
例えば、大胆に余白をとったり、描かれているものを切り取ったり。
ヨーロッパの絵画ではありえない構成の仕方に、ヨーロッパの画家たちは衝撃を受けたわ。

西洋絵画ではご法度な、画面の右上半分を占める大胆な余白が印象的。

橋の真ん中だけを残し、手前を奥をぶち切ってしまっている。
西洋絵画ではありえなかった構図。
確かに、改めて浮世絵を見ると、ヨーロッパの絵画には無いデザイン性がある気がするな〜。
二つ目は、浮世絵の装飾性よ。
現代の漫画にも繋がる特徴だけど、日本の絵画はデフォルメされて描かれるのが特徴なの。
人を描くときも、デッサンの正確性より絵画表現としてどう魅力的に描くかを優先しているわ。
喜多川歌麿の「ポッピンを吹く女」。
もしヨーロッパだったら「デッサンがなっていない」と酷評されたに違いない。
だが、平面的であるからこその美しさがある。
参照:喜多川歌麿 – Wikipedia

絵のタイトルの囲いが植物によって装飾されている。
こういった日本美術の装飾性が、ナビ派に多大な影響を与えた。
言われてみれば確かにな!
写真のように描かれているわけではないけど、美しさがあるっていうか……。
歌琳さん、それよ。
実はナビ派が目指していたものと近いことをしていたのが、日本の浮世絵だったの。
この日本の浮世絵との出会いが、ゴーギャンの教えに続いて、ナビ派の画家たちに多大な衝撃を与えたわ。
代表作にあるボナールの「庭園の女たち」なんかは、構図や装飾性で分かりやすく浮世絵の影響を受けているな!
ボナールの「庭園の女たち」。
画面構成、平面性、装飾性……、あらゆる面で日本美術の影響を感じさせる作品。
参照:《庭の女たち》ピエール・ボナール|MUSEY[ミュージー]
「ナビ派」が見れる場所は?
残念だけど、日本国内でナビ派をまとめて所蔵している美術館などは無いわね。
そうか〜。
画集や書籍はあるのかな?
実は、ナビ派だけを収録した画集や初学者向けのナビ派の書籍ってあまり無いのよ。
数少ない中で、あまりくわしくない人でも面白く読めそうなのがこちらの書籍よ。