ボッティチェッリ 「ヴィーナスの誕生」を分かりやすく解説!

ボッティチェッリ 「ヴィーナスの誕生」を分かりやすく解説!

日本人ならほとんどの人が知っているであろう、サンドロ・ボッティチェッリ の大作「ヴィーナスの誕生」についてご紹介します!

ヴィーナスの誕生の作品画像や作品情報だけでなく、そこに描かれているものや描かれた背景についてもご紹介していきます。

「ヴィーナスの誕生」ってどんな絵?

ヴィーナスの誕生の基本情報はこちら。

作者サンドロ・ボッティチェッリ
制作年1483年頃
絵画様式ルネサンス
画材・技法テンペラ
収蔵ウフィッツィ美術館

そしてこの絵がヴィーナスの誕生ですね。

サンドロ・ボッティチェッリ
「ヴィーナスの誕生」

学生時代の美術の教科書にもルネサンスを代表する絵画として載っていますし、きっと見たことがあると思います。

水辺で浮いている貝殻の上にヴィーナスが立っています。

そして、左側からは羽根の生えた男女が風を吹きかけ、右側からは女性がヴィーナスに布をかけようとしています。

確かに素敵な絵であることは間違いないのですが、どうしてこの作品が日本でポピュラーに愛され、世界的にも評価されているのかお話ししていこうと思います。

「ヴィーナスの誕生」は何が描かれている?

ヴィーナスの誕生は、ギリシャ神話にあるワンシーンを描いたものです。

ヴィーナスが海から誕生して岸に流れ着いたシーンですね。

ヴィーナスの誕生には、ヴィーナスを含めて4人の人物が描かれていますが、それぞれがどんな存在なのか解説していこうと思います。

愛と美の女神・ヴィーナス

サンドロ・ボッティチェッリ
「ヴィーナスの誕生(ヴィーナス部分)」

まず中心に描かれているのがヴィーナスですね。

ヴィーナスはローマ神話に登場する愛と美の女神です。

ギリシャ神話のアフロディーテと同一視されています。

ローマ神話はギリシャ神話を思いっきり参照しているので、神様が結構かぶっているんですよね。笑

ヴィーナスは、先ほどちらっと紹介したように海から生まれたと説明されることが多いのですが、実は、

大地、農耕の神・クロノスが、父親で天空の神・ウラノスの男性器を切り取って海に投げ捨てたときにその周りに生じた泡から生まれた

と言われています。笑

神話ならではのシュールさですね〜。笑

で、そんなヴィーナスがホタテの貝殻に乗って岸辺にやってきているわけです。

この岸辺はどこかというと、地中海に実在する島であるキプロス島

実はこのキプロス島に、ヴィーナスの誕生で描かれている背景の海岸線に似た景色があると言われています。

そう聞くと、神話の世界の絵でありながらなんだかグッと身近に感じますよね〜。

そして、ヴィーナスの胸と股間をやんわり抑えているポーズがとても印象的ですよね。

このポーズは、ボッティチェッリがオリジナルで生み出したものではなく、「恥じらいのヴィーナス型」と呼ばれるギリシャ彫刻の定番ポーズなんです。

このポーズが絶妙に美しさとエロティシズムを演出していて魅力的に感じますよね〜。
古代ギリシャ人の美に対する感度の高さがうかがえますね!

西風の神・ゼピュロスと妖精・クロリス

サンドロ・ボッティチェッリ
「ヴィーナスの誕生(ゼピュロス・クロリス部分)」

ヴィーナスの乗っているホタテの貝殻にはエンジンを積んでいるわけではないので(笑)、キプロス島にちゃんとたどり着くためには、そこへ導いてくれる存在が必要です。

その役割を担ったのが西風の神・ゼピュロスです。

(めっちゃフーフー吹いている方ですw)

そのゼピュロスが抱いているのがギリシャ神話に出てくる妖精のクロリスです。

実はゼピュロスは、クロリスを無理やり誘拐した経緯があるんですよね。

ですが、自分の罪を悔いたゼピュロスは、下級の女神(妖精)であったクロリスを主神・ゼウスに頼み込んで神様に昇格してもらい、さらに結婚もしました。

結果、クロリスは花と春を司る神・フローラとなったのです。

見出しや画像紹介では「クロリス」と書きましたが、ゼピュロスにラブラブでしがみついている(笑)様子や、周りにバラが振りまかれている様子からして、この絵の中では「フローラ」として描かれているんじゃないかな〜?と思います。

時間と季節の女神・ホーラ

サンドロ・ボッティチェッリ
「ヴィーナスの誕生(ホーラ部分)」

岸辺でヴィーナスを待ち構えて、服を羽織らせようとしているのが時間と季節の女神・ホーラです。

ホーラは、実は三人姉妹でゼウスと法、掟の女神・テミスの間に生まれた子供。

三人姉妹を合わせて「ホーライ」と呼びますが、一人だけのときは「ホーラ」になります。

ホーラがヴィーナスに羽織らせようとしている服や、自身が着ている服には花模様が刺繍されていて、華やぐ季節である「春」を感じますよね

「ヴィーナスの誕生」が描かれた背景は?

ヴィーナスの誕生に何が描かれているかは分かったかと思います。

が、なぜこのような絵が描かれ、そしてルネサンスを代表する絵画として現代でも愛され続けているのか。

その核心に迫っていこうと思います!

ルネサンスはどういう時代だったか?

ヴィーナスの誕生の価値を知るためには、まず時代背景を知る必要があります。

ヴィーナスの誕生が描かれたのは15世紀後半。

ルネサンスの真っ只中です。

ルネサンスは、それまでヨーロッパを支配してきたキリスト教的な文化や価値観が劇的に変化した時期なんですね。

中世キリスト教世界の特徴を簡単に言うと、

  • 理想主義(精神世界が大切)
  • 理性的(禁欲的)
  • 信仰が大切

という価値観です。

ですが、ルネサンス期に入ると、キリスト教以前の古代ギリシャ・ローマの文化を復興しようという動きが高まり、

  • 現実主義(物質世界が大切)
  • 感覚的(快楽的)
  • 人間そのものや営みが大切

という価値観が盛り上がってきます。

昨日今日で大変化したわけではないとはいえ、数百年の間で価値観が180度変わってしまったのがルネサンス期。

現代日本も、若者と年寄りの間で劇的なジェネレーションギャップがありますよね。
ルネサンス期もそんな感じだったんじゃないかなぁ。

こういった価値観が大きく変わる過渡期は、過去の価値観と新しい価値観が同居している状態になるんですよね。

ルネサンス期も同様で、キリスト教の影響力が弱まったとはいえ、まだ厚く信仰している人たちはたくさんいましたし、一方で人間であることを謳歌する風潮も広がってきていました。

そんな中、ヴィーナスの誕生の作者であるボッティチェッリも時代に翻弄されていました

私は敬虔なクリスチャンだけど……、時代は人間を謳歌する時代になりつつある……。
どういう価値観を持って生きていけば良いのか……。

きっとボッティチェッリだけでなく、この時代には何を信じて生きていくべきか思考をめぐらせた人たちが数多くいたことでしょう。

新プラトン主義の流行

そんな彼らの間で、「新プラトン主義」という考え方が流行ります。

新プラトン主義は、古代ギリシャの哲学者であるプラトンの思想をさらに発展させた思想です。

プラトンの思想と言えば、「イデア論」。

プラトンは、

人間が五感で感じることができる物事は、純粋で理想的な精神世界の存在(イデア)の影のようなものだ

と考えていたんですね。

具体例を挙げると、

花は美しく見えるが、それは花自体が美しいのではなく、花という物質世界のものを通して真の美しさ(美のイデア)を見ているだけ

という感じ。

そしてプラトンは、

大事なのは、精神世界の方!
見えたり触れたりできるこの世界よりも、イデアこそが大切なのだ!

という考え方を持っていました。

ですが、この考え方だと人間らしさや物質世界よりも、信心や神の世界を重要視したキリスト教世界とあまり変わらないんですよね。

そこで、ルネサンスで流行った新プラトン主義では、

人間は、物質世界での人間らしい営みから出発して、理想的な精神世界へと至ることができるポテンシャルがある!

という形で、人間らしさや営みの価値を肯定しました。

そうすることで、中世キリスト教世界とルネサンスの両方に価値を見出すことが可能になったのです。

中世とルネサンスを繋ぐ「ヴィーナスの誕生」

ヴィーナスの誕生を描いたボッティチェッリは、新プラトン主義者でした。

それゆえに、

新プラトン主義の思想を盛り込んだ絵にするぞ!

と、ヴィーナスの誕生の作中でも物質世界と精神世界の調和を取るように努めました。

そのときにキーワードになったのが「」と「」です。

キリスト教の世界における「愛」とは、神による無償の愛(精神的な愛)のことを指します。

一方で我々は、人間同士の性愛や恋愛のことも「愛」と言いますよね?

そう、愛には精神的な愛と物質的な愛の両面があるのです。

「美」についても同じで、五感で感じとることのできない理想として存在する美と、我々が花などを見て感じる美しさがあります。

そんな物質世界と精神世界を繋ぐ愛と美という概念を、愛と美の女神・ヴィーナスを用いて表現する。

それこそが、ボッティチェッリがヴィーナスの誕生に込めたメッセージなのです。

他にも、

  • 愛し合うゼピュロスとクロリス
  • 恋の季節・春を告げるホーラ
  • 美しいバラの花と自然あふれる陸地

といったところに、愛や美が表現されています。

そしてそもそもの話ではありますが、ギリシャ・ローマ神話を主題にしている時点で古典古代の復興(ルネサンス)を象徴していると言えますね。

こういった点からヴィーナスの誕生は、ルネサンスを代表する名画として現代でも愛され続けているのです。

絶世の美女へ愛を込めて

さて、ここまではヴィーナスの誕生に込められたボッティチェッリのメッセージについてお話ししてきました。

実はこの名画には、ボッティチェッリの思想だけでなく、個人的な思いが込められているという説もあります。

というのも、ヴィーナスのモデルかもしれないと言われている女性がいるんですね。

彼女の名前は……、シモネッタ・ヴェスプッチ
フィレンツェ中の男たちを虜にした絶世の美女さ。

このシモネッタ、フィレンツェの市政をおこなっていたメディチ家の当主ロレンツォ・デ・メディチや、その弟ジュリアーノまでもを虜にしたと言われています。

そしてボッティチェッリもそんなシモネッタにのめり込み、ヴィーナスの誕生のヴィーナスを含め、シモネッタをモデルにたくさん絵を描いたと言われています。

しかし、美人薄命と言いますか……、シモネッタはボッティチェッリの絵のモデルを務めるようになってからわずか1年、23歳という若さで肺結核でこの世を去ります。

ヴィーナスの誕生が完成したのはシモネッタの死の9年後ですが、一説によると、ボッティチェッリはシモネッタへの思いを込めてヴィーナスの誕生を描き上げたと言われています。

「ヴィーナスの誕生」はどこで鑑賞できる?

ルネサンスを代表する名画・ヴィーナスの誕生は、西欧のルネサンスの中心地となったイタリアはフィレンツェにあるウフィツィ美術館で鑑賞することができます。

ウフィツィ美術館は、ボッティチェッリが描いたもう一つの名画・プリマヴェーラ(春)も所蔵しています。

なので、本物を日本で見ることは難しいのですが、実は日本でも身近なところでヴィーナスの誕生のレプリカを鑑賞することはできます。

それは、イタリアンレストランのチェーン「サイゼリヤ」です。笑

税込299円(ミラノ風ドリアの値段w)でレプリカを鑑賞できるのは最高ですね!

サイゼリヤは他にもたくさんの名画が飾られているので、気軽に美術館気分が味わえる場所としておすすめです。

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