「『アートとは何か?』という問いに対する正解は存在しない」
という話は、「アートって何?」の記事で話したわね。
なので、この記事では「アートとは何か?」という問いを各自が考える材料として、アートの由来の話をするわ。
「アート」という言葉がどこからやってきて、どう日本に定着したか、って話だな!
「art」は海外から輸入した概念
「アート」が英単語の「art」をそのままカタカナにしたものであることは分かるわよね?
あぁ!それは分かるな!
この「art」という英単語は明治時代にヨーロッパから輸入した言葉なの。
ってことはそれより前は、日本にはアートが存在しなかったのか……?
ええ、そうよ。
でも、江戸時代に流行った浮世絵とかあるじゃん?
それは違うのか……?
物を創り表現するという活動自体は、世界中のあらゆる国や地域で古くからおこなわれているわ。
でも、それらはアートではないの。
アートはあくまでヨーロッパやアメリカで育った概念なのよ。
だから、浮世絵も「アートだ!」と後出しで言っているだけで、最初からアートとして生み出されたものではないのね。
な、なるほど。
そもそも日本にはアートが存在しなかったというのは、目からウロコだったぜ……!
そう。
だから、「art」という言葉を輸入したとき、日本人は翻訳するために新しい言葉を生み出さなくてはいけなかったの。
それが、「芸術」よ。
「芸術」は「art」を翻訳するために生み出された言葉なの。
なるほど……!
現代のうちらがイメージするアートは、そこから始まったのか!
いえ、実を言うとちょっと違うのよ。
というのも、このとき輸入した「art」は、「リベラル・アーツ」という意味で使われていたの。
リ、リベラル・アーツ……?!
ふふふ♪
歌琳さんきっとそうなると思ったので、リベラル・アーツの解説を用意しておいたわ。
ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流を持ち、ヨーロッパの大学制度において中世以降、19世紀後半や20世紀まで、「人が持つ必要がある技芸(実践的な知識・学問)の基本」と見なされた自由七科のことである。具体的には文法学・修辞学・論理学の3学、および算術・幾何(幾何学、図形の学問)・天文学・音楽の4科のこと。
リベラル・アーツ – Wikipedia
む、難しいぞ……!
ちんぷんかんぷんだぜ……!
簡単に言うと、
ヨーロッパの大学で「すべての人に必要」とされた学問
のことを指すのよ。
あ!
しかもよく見たら、アートに関連する学問、音楽しか入ってなくね……?
気付いたわね。
ちなみに、リベラル・アーツの7つの科目を分かりやすく説明すると、
文法学:言葉を正しく使う方法を学ぶ
修辞学:他人を論破する方法を学ぶ
論理学:思考のつながりを明確にする方法を学ぶ
算術 :計算方法を学ぶ
幾何 :図形や空間の性質について学ぶ
天文学:宇宙の性質や法則を学ぶ
音楽 :音の性質や理論を学ぶ
という感じよ。
あれ?
ってことはさ、「art」には現代で言うアート的な意味合いがまったくないってことなのか?
いいえ、それは違うわ。
実は「art」という言葉にはたくさんの意味があって、そのうちの1つがリベラル・アーツってだけなのよ。
そして、たまたま明治期の日本にリベラル・アーツがきっかけで輸入された、ということね。
そうなのか!
じゃあ、今の話は「art」を輸入したきっかけの話にすぎないから、アートを知るためにはヨーロッパで「art」という言葉がどう使われていたかを知る必要があるってことだよな?
そのとおりよ♪
語源はラテン語「ars」
「art」は英語だけど、さらに語源を遡るとラテン語の「ars」なのね。
この「ars」には、「技術」や「資格」「才能」といった幅広い意味があったの。
このうちの「技術」には、「人の手を施して装飾する」という意味合いも含まれていて、これが現在のアートの直接の由来になっているわ。
ただ、この時点では「人の手を施すこと全般」が含まれていたので、医術や建築工学、学問までもが含まれていたのよ。
すげぇ、ほんとに幅広いな……!
建物を建てるのはまだしも、医者が手術したことを「アートだ!」と言うのは、なんか違ぇ感じするぜ!
この「ars」の意味の広さは、英語に組み込まれて「art」になってからもしばらくの間は続くの。
科学が発展して変化した「art」
それで、次に「art」の意味に変化があったのはいつなんだ?
イギリスで産業革命が起こってから徐々に変化していくわ。
産業革命をきっかけに18世紀頃から科学が発展していった結果、科学力を駆使して実用的なものを作る技術を「technology(テクノロジー)」と呼ぶようになったの。
おお、テクノロジー!
「art」から「technology」が分裂したんだな!
すると、あらゆる技術に対して使われていた「art」の意味が狭まって、装飾や美的なものを創造する技術に対して使われるようになったわ。
実用的なものは「technology」、それ以外は「art」になったってことか〜。
実用性のない美を追究するように
「art」から実用性が切り離されたのは、それはもう大きな変化だったわ。
産業革命以前の絵画や彫刻、音楽などは、基本的に実用性ありきの存在だったのよ。
え?
絵画や彫刻、音楽の実用性ってなんだ?
実は、産業革命以前の絵画や彫刻、音楽は、主にキリスト教の布教や信仰のため、あるいは、権力者の政治利用のために存在していたのよ。
現代のような、自由な表現としてのアートとは程遠かったの。
そうだったのか!
あ、でも確かに、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵とかミケランジェロの彫刻も、キリスト教の聖人や権力者の姿を描いたり、教会や権力者の家に飾るものだったりするな……!
なんかそう考えると、芸術家っていうより職人っていう要素が強かったんだなぁ……。
そうそう。
けれども近代化が進んでいく中で、「art」は宗教や政治、生活などから独立して美を追究する活動へ繋がっていったのよ。
なるほどなぁ。
そもそも日本人には難しい「art」
って感じで実用性から離れた「art」は、制約がなくなって自由になり、一気に表現が複雑になっていったの。
ところで歌琳さん。
近代以降のヨーロッパのアートにどんな表現があるかって知ってるかしら?
え〜〜と……、なんだろう……。
そう言われると、パッと思い浮かばないなぁ。
印象派が活躍した辺りから、その先どんなアートが出てきたのか全然知らない……。
ふふふ♪
そう、たぶん多くの人が歌琳さんと同じように感じていると思うの。
20世紀以降どんなアートが生まれたか簡単に紹介すると、
・四角を描いただけのアート
・アートを否定するアート
・指示だけのアート
といったものが生まれたのよ。
???????
えっ、ちょっと待て、はぁ??
ちんぷんかんぷんだぞ……!
うふふふふふ♪
実用性がなくなった結果、アートは掴みどころのない雲のような概念になってしまったの。
でもさ、それだとめっちゃ頭いい人にしか理解できないものになっちまわねぇか?
ええ、そうよ。
ただでさえ「art」はヨーロッパから輸入した概念なので、日本人にとってはさらに難しい概念になってしまったの。
日本人にとっては?
ヨーロッパの人たちはどうだったんだ?
ヨーロッパの人たちは、もともと文化の中に存在している概念なので、日本人ほど難しく感じていないと思うわ。
文化の違いって思っている以上に大きいのよ。
ほら例えば、日本人が感覚的に分かっている「わびさび」とか「みやび」の概念は、ヨーロッパの人に細かいニュアンスまで伝わらないでしょう?
そう言われてみればそうだな……!
同じように「art」は日本人にとってそもそも感覚的に分かりづらいんだな。
カタカナ語「アート」の誕生
近現代になるにつれて「art」の文化や歴史がなく教育もしていない日本人は「art」を理解するのが難しくなった、というのは伝わったかしら。
おう、分かったぜ!
良かったわ。
では、その後の話をするわね。
実は日本人って、海外の言葉や文化を取り入れるのが得意な民族なのよ。
大陸から漢字を取り入れてひらがなを開発したり、外来語をカタカナで表記して日常に取り入れたり。
確かに、クリスマスもハロウィンも盛り上がるもんな!
ただ、これは別に日本人が悪いってわけではないけど、取り入れ方が表面的なのよね。
クリスマスは、イエス・キリストの降誕祭でキリスト教の一部の教派で祝われたものだけど、誰一人そんなことを考えて祝っていないでしょ?
そうだな。
うちもクリスマスはサンタの衣装を着てケーキを売っているけど、キリストのことなんて考えたこともないもんなぁ。
(歌琳さん、そんなバイトをしていたの……?!)
……コホン。
とにかく日本人は、取り入れ方が表面的なわりに取り入れたがりなの。
だから、「art」も取り入れようとした。
でも、さっきも言ったようにそもそも文化として存在していないんだから、うまく取り入れるのがとても難しかったのよね。
歌琳さん、そのとき日本人はどうしたと思う?
えっ!
う〜〜ん、なんだろう、分からないな……。
カタカナ語の「アート」を生み出したの。
えっ!
最初の方で「art」を日本に輸入するときに「芸術」と翻訳した、という話をしたわよね。
「芸術」という言葉自体は現在でも広く使われているけど、歌琳さん、「芸術」って聞くとどう感じるかしら?
なんか硬いんだよな〜!
漢字2文字だからかな〜〜?
なんかすごい頭の良い人が使う言葉っぽい。
「日本の芸術について研究していましてね……(眼鏡クイッ」
みたいな!
そう、だから、やわらかい表現として「アート」を生み出したのよ。
そして、「芸術」より「アート」の方が多くの日本人に受け入れられやすいから、ネイルアートやアート市、アートワークショップなど、アートっぽければ全部「アート」になったのね。
要するに、ヨーロッパが築き上げてきた概念の「art」と日本人がよく使っている「アート」は別物ってことなんだな……!
そのとおり♪
さっきの歌琳さんの例えで言うなら、
キリスト教の文化である「Christmas」と日本のイベントの「クリスマス」が別物なのと、似たような感じなのよ。
なるほどな〜。
よく分かったぜ!
さて、アートの由来や語源についてはこのくらいにしておきましょうかね。
言葉の定義にまつわる話は以下の記事でも紹介しているので、興味がある方はそちらもぜひ読んでみてくださいね♪